今日の月

 

佐賀県立点字図書館
館長  野口 幸男

 

 

 秋の気配が深まってまいりましたが、利用者の皆さまにはお変わりございませんでしょうか。
 先月のことになりますが、9月10日の九州視覚障害者情報提供施設大会沖縄大会において、点訳の伊東久美子さんと音訳の西村恵美子さんが表彰を受けられ、13日の佐賀県視覚障害者福祉大会においては、点訳の岩井祥子さんと音訳の右近康恵さんに感謝状が贈られました。これまでの積極的な活動とたゆまぬ努力とに対して深く敬意を表しますとともに、今後のご活躍を祈念いたします。
 前号及び前々号でご紹介しました「ダイアログ・イン・ザ・ダーク(以下、「DID」という。)」、点字図書館職員と友の会会員の4名が体験することが出来ました。体験した職員の声が、「暗闇では声をかけ合わないと不安。利用者に安心感を与える声かけを心がけたい」と新聞に載りました。8月30日の読書会は、28名の方にご参加していただきました。DIDの概要や日本での開催、それを通じて、それまで常識とされてきたことを覆す試み、佐賀におけるこれからの活動など、「暗闇から世界が変わる」の著者志村真介氏に丁寧にお話しいただき、奥様の志村季世恵様からも質問に答えていただくなど、楽しい読書会になりました。
 パソコンで、ある新聞のコラムの朗読を聞いていました。立秋にもかかわらず暑いさまを詠んだ句が、古今和歌集の「秋こぬと目にはさやかに見えねども…」を踏まえたもので、と紹介されたのです。「秋こぬと」ではなく「秋きぬと」でしょう、と思ってしまいました。メールで新聞社に間違いではないでしょうかと伝えると、音源を削除しますとの返信が来て、しばらくして修正されたものが掲載されて、ようやくに秋風を感じることができました。
 点字図書館に勤めるようになってから、言葉や文法についてほんの少し敏感になったような気がします。利用者やボランティアの方々から時折受ける質問や意見に、鈍っていた言語感覚を揺さぶられるせいかもしれません。最近、ボランティアさんに無理を言って季節ごとに色紙を書いていただき、図書館の玄関に掲げています。仲秋の名月に向けて、塙保己一の句とそれに答えた妻の句をお願いしたのですが、後で調べてみると、「花ならば さぐりても見ん 今日の月」、「花ならば 手にとりて見ん 今日の月」と微妙に違っていました。言葉も歌も生き物なのだなあと思いつつ、今日の月を眺めてしまった私でした。
 点字プリンターが作業室に移動したので、当館の閲覧室は静かに本が読めるようになりました。読書の秋、時間を見つけてご来館いただき、ゆっくり本を選んだり、読んだり聞いたりしていただければ幸いです。

                                

 

 ←もどる