春の訪れを前に

 

佐賀県立点字図書館
館長  野口 幸男

 

 

 2月3日は節分、4日は立春。長かった冬から春へ、季節が移ろうとしています。
 利用者の皆さまには、日頃より点字図書館をご利用いただき、またご支援ご協力賜り心から感謝申し上げます。
 本年1月1日、点字図書館にとっては重要な条約の発効および法律の改正が行われました。条約の名称はマラケシュ条約で、正式には「盲人、視覚障害者その他の印刷物の判読に障害のある者が発行された著作物を利用する機会を促進するための条約」というものです。法律の方は著作権法の改正で、「肢体不自由等を含め、障害によって書籍を読むことが困難な者のために、録音図書の作成等を許諾なく行えるようにする」と対象が広げられました。
 世界盲人連合によると、毎年、世界中で出版される100万冊程度の書籍のうち、手に入れられるアクセシブルな形式の書籍は7%であり、開発途上の最貧国においては1%とされています。この状況は「本不足」と呼ばれ、世界盲人連合を中心として、知識へのアクセスの改善が訴えられてきています。
 時代というものは、いつも変動期であり転換期であるのかもしれません。進化や変化が無ければ、すなわち退化であり停滞となります。平成の終わりが近づくこの頃、30年間のことが思い出されます。マイコンピューターからパーソナルコンピュータへ、そしてスマートフォンへ、情報通信技術はあれよあれよという間に進化していきました。マイコンピューターに加減乗除のプログラムを入力したり、データをカセットテープに保存したりしていた時代が、まるで石器時代のことのように思えます。一時隆盛をきわめた「ワードプロセッサー」も、押入れの隅に追いやられて今では死語に近くなっています。技術革新の速度に比べると、障がい者を取り巻く環境の変化は遅々としたもののように思えます。昨年発覚した障害者雇用の水増し問題などにも表れています。
 1月中旬、「ヘレン・ケラーの愛した日本〜没後50年 奇跡の人の知られざる真実」というテレビ番組が放映されました。ヘレン・ケラーは三度日本を訪れて、各地で数多くの人たちと出会い、とりわけ障がいを持った人たちに勇気と誇りを伝えました。番組の最後、ジョン・レノンの「イマジン」が流れる中、ヘレンのメッセージが朗読されました。以下にご紹介して結びとします。

 見えない私から、目の見えるみなさんへ、ひとつヒントをあげましょう。
 明日、あなたの眼が急に見えなくなると思ってものを見てはどうでしょう。
 声も、音楽も、山鳥のさえずりも、明日から聞こえなくなると思って聞いてみましょう。
 明日からは触覚がなくなると思って、触りたいものをひとつひとつさわってみて下さい。
 匂いも味も分からなくなるのだと思って、花の香りをかぎ、たった一口のごちそうを味わうのです。
 体中の全ての感覚を目一杯つかって、あらゆる美しさ、そして喜びを感じて下さい。

 



 


                                

 

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