センター通信

ごあいさつ

花園にて


佐賀県立 視覚障害者情報・交流センター
センター長 田中 真理

 

 

 「あい さが」利用者及びボランティア、ならびに「あい さが」を支えていただいております皆さまには、ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。

 新しい年が始まりました。新型コロナという言葉もすっかり聞き飽きて、というより、もうすっかり受け入れてしまっていますが、どうにも気詰まりというか、閉塞感みたいなものがずっと漂っているような気がします。今年は、その閉塞感が少しでも薄れるような年になれば良いと願っていますが、さてどのような年になるでしょうか。

 

 11月の初めに、高知県を訪れる機会がありました。その際、地元の方におすすめの観光地を尋ねたところ、「牧野植物園がいいよ」と教えてもらい、ならばと行ってみる事に。これが実に素晴らしい所でした。

 牧野植物園は、高知県出身で「日本の植物分類学の父」と呼ばれる牧野富太郎博士の業績を記念して開設された植物園です。高知市内から車で15分ほどの、五台山という小高い山の一角にあります。

 実は私、植物園というものにあまり行ったことがありません。行ったことがあるといえば花や紅葉が有名なお寺とか、テーマパークの中のバラ園とか……あ、北山のシャクナゲ園と、ぼたんと緑の丘には行きました! あと大和中央公園の花しょうぶ園も。そんな経験を思い返しながら、まあ2時間もあれば回れるかな、と向かってみると、駐車場からまずびっくり。えーと、下った所が植物園? 入り口は? え、入り口は坂の上にあるんですか? 上にも駐車場?

数メートル上ってみると、重厚そうな石塀に「高知県立牧野植物園」との看板。よし、と入ってみると……おお、凄い!

入り口に向かって伸びている小径の両脇が、地域の植生を再現したものになっているのですが、細やかさがすごい。野原の植生、水辺の植生、山の植生、岩陰の植生などなど、いくつものエリアがあり、実際に水辺には小川が流れ、岩陰には小さな滝のような水辺を作り、北向きで自然にあまり日が当たらない環境を作り出しています。野原の方は南向きの平らな地面。草だけでなく樹木の類も、高低織り交ぜて植えられており、植物にはすべて名称のキャプションがつけられています。自然な状態を第一に考えてあるようで、どこにでも生えるような植物はあちこちのエリアで見かける一方、外来種の草などはまったく見かけず。手入れの行き届き具合がすごい……。

正直ここだけでも一時間くらい過ごせそうでしたが、まだ入場口にすらたどり着いていないため、やむなく足を動かして受付へ。

入場してみると、広い回遊型のデッキテラスの右にショップ兼レストラン、左に牧野富太郎記念館本館とあります。こちらは牧野博士の研究と業績をテーマに、日本の植物学の歴史から、牧野博士が調査・研究し、書き残した膨大な植物の記録やスケッチが展示されていました。植物の写生がとても緻密! 表面、正面だけでなく、側面から断面図、各部位、葉っぱの形、拡大図まで。図鑑の図説そのまま、というか、この写生がそのまま図説となって植物図鑑が作られたそうです。これが日本初の植物図鑑「牧野日本植物図鑑」で、現在も増補をしながら出版されているとのこと。この建物だけでも入ってくる情報がもう、盛りだくさん。

そこから回廊に出ると、片側にシダ類の植栽エリア、反対側にレクリエーション広場と続き、その先にはまた建物が。こちらは、牧野富太郎記念館展示館。牧野博士の生涯から人物像、実際に使用していた器具や当時の自宅の様子などが再現され展示されていました。ほかにも、高知県の植生の特徴や、植物の分類方法の解説なども。

膨大な写真のほとんどで笑顔の牧野博士は、本当に植物研究がお好きだったんだなぁ、などと感心しつつ、ここまで休みなく見て回り、ちょっと座りたいかも……。

いやしかし、帰りの時間もあるし、まだ坂の下エリアが残ってるということで、ちょっとだけ休憩してまた移動。坂の下に見える巨大な温室らしき建物を目指します。

温室へ向かう道すがらも、当地の植生やバラ園を通る仕様になっており、私が行った時はほぼ終わっていましたが、開花時期にはたくさんの種類のバラが楽しめるようになっていました。下りきると今度は見事な庭園と、もうどこを見ても口をポカンと開けるしかない広さと充実ぶり。

温室は回遊式で、簡単な起伏や水辺の中を歩きながら熱帯や亜熱帯の植物を楽しめるようになっています。開花したものや結実しているものには目立つキャプションをつけて、目立たない・見慣れないものでも見逃さないよう工夫されています。更には世界最大の蓮であるオニバスの葉脈を下から眺められるトンネルや、エレベーターまで完備。上に上がればヤシの木だって見下ろせて、鳥かサルにでもなった気分です。

ここを2時間で回ろうなどと、甘っちょろい考えでした。おそらく食事も含めて3時間くらい居たはずですが、最後は駆け足でしたし、すべてのエリアを見ることもできなかったです。次の目的地を一部カットしましたが、それでも時間が足りないと感じました。

後で調べたところ、この植物園は8ヘクタールもの敷地があるそうです。最初にマップを見たとき、カフェやレストランが2つもあるんだと驚きましたが、これだけの広さと展示内容であれば、それも納得です。

ここまで、内容を説明するのにいつもの倍の文字数を使いましたが、読み返してみてもまったく驚きと感動を伝えきれていません。私のつたない文章では表しきれない魅力がいっぱいの施設ですので、植物にちょっとでも興味関心のある方は、ぜひとも現地を訪れていただきたいと思います。

さて、この牧野富太郎博士、2023年4月開始のNHK連続テレビ小説「らんまん」のモデルとなっています。ドラマは史実を元にしたフィクションということになるそうですが、記念館で見知った牧野博士の生涯は波乱万丈、とても面白いドラマになりそうで今から放送が楽しみです。植物園の方も、きっと大賑わいになることでしょう。

四国にはこれまでほとんど行ったことがなく、何となく行きにくいようなイメージがあったのですが、今回行ってみたことで、福岡空港から高知空港まで飛行機で1時間程度と、思っていたよりも近い距離だと実感しました。これから徐々に暖かくなってきます。巨大植物園への再訪を夢見つつ、身近な植物についても、関心を広げていきたいと思います。