センター通信
ごあいさつ
旅は道連れ
佐賀県立 視覚障害者情報・交流センター
センター長 田中 真理
「あい さが」利用者及びボランティア、ならびに「あい さが」を支えていただいております皆さまには、ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。
まさに盛夏というような暑い日々が続いておりますが、皆様体調はいかがでしょうか。暑がりにはつらい季節、今年も文明の利器を駆使して乗り越えるしかないようです。
さて、先日大阪に行ってまいりました。仕事は一日だったのですが、せっかくなので休みを取って翌日は観光してきました。もとは国立民族学博物館、通称みんぱくに行く予定だったのですが、どうも天気があやしい。みんぱくに行くには最寄駅から万博記念公園の中を突っ切る必要があります。どのくらいの距離かわかりませんが、ここで雨に降られるのはちょっと……一応折り畳み傘は持っていますが、使った後のことを考えるとなるべく使いたくありません。
ということで、目的地を変更。かの有名な天神橋筋商店街にある、「大阪くらしの今昔館」に行ってきました。ここは地下鉄出口直結の、大阪市立住まい情報センタービルの8~10階にある屋内型ミュージアムです。大阪の「住まい」をテーマにしており、常設展として江戸時代の大阪の町並みを実物大で再現した「なにわ町家の歳時記」と、明治・大正・昭和の住まいをジオラマで再現した「モダン大阪パノラマ遊覧」があります。
江戸時代のエリアでは、一定のタイミングで朝から昼、夜へと明るさが切り替わります。建物や町並みの再現自体は珍しくありませんが、時間の経過を感じられるというのは、興味深い体験でした。やはり夜は、行灯だけだとかなり暗いんだなとか、ドラマや落語でおなじみの裏長屋、改めて見ると狭いな、とか。そうそう、大阪の町には井戸がなく、代わりに水壺があって各自水屋さんから水を買っていたというのも、ここで初めて知りました。
展示物や調度品は基本的に触ってはいけないのですが、音声ガイド(100円)を購入すると、落語家の三代目桂米朝さんの語りを聞くことができます。見るだけではわからないことを教えてもらえる、ためになる音声ガイドでした。
近代のエリアでは、展示物はジオラマで、ケース越しに眺めるだけなのですが、ここでも大正から戦後あたりの、一人の女性の人生と住宅の移り変わりのエピソードを、女優の八千草薫さんのナレーションで聞くことができるようになっています。うーん、大阪の住宅事情、面白い。バス住宅なるものを初めて知りました。
ミュージアムショップなども見て回り、ロッカーから荷物を取り出したところで時刻はちょうど13時過ぎ。商店街に繰り出すことも考えましたが、前日の夜、歩き疲れて外食を断念したミスを思い出し、乗り継ぎの梅田駅まで戻ることにしました。旅先なんだから贅沢しようと、阪急うめだ本店の最上階のレストランへ。普段食べに行く店の三倍の値段なだけあって、パンの一つ一つからして美味しかったです。デザートまで食べ終えた頃には、疲れた足にも力が戻ってきました。
いい気になってデパ地下を物色などしていたら、余裕があったはずの時間があら大変。何とか新幹線の時間前に新大阪にたどり着きましたが、そうだお土産を買っていない! 売り場に走り、商品までは手にするも、レジ待ちの列に並んだあたりでタイムアップ。予定していた新幹線には乗れませんでした……。
まあ過ぎたことは仕方がありません。元々自由席の切符なのでどの便に乗っても変わらんし。一本遅れたぐらいで帰りが夜中になるわけでもないし。というわけで、20分の猶予ができたので真面目にお土産を選び直し、会計をし、ついでに売店でお茶と、おやつのポテトスナックなどを買い込みます。次の新幹線さくらは新大阪が始発なので、のんびりと歩いてホームまで上がり、自由席の列へ。前に並んでいるのは10人くらいなので、これなら座れないということもないでしょう。
ぼーっと立っていると、前に並んでいるマダムが何やら時刻表のようなものを取り出し、何回も確認しています。ちらりと見えた手作りらしき時刻表には、「小倉」「ソニック」「大分」の文字が。
九州の方かな?と思っていたら、こちらを向いたマダムが時刻表を見せながら尋ねてきました。
「これ、この新幹線に乗っても次のに乗っても、変わらないわよね」
「え? えーっと、ああ、うん、そうですね。10分ぐらいの差ですね。ソニックの出発時刻からすると、どちらに乗ってもあんまり変わりはないみたいですね」
「そうよね! それなら、もう並んじゃってるから、これに乗ろうかしらね」
「はあ」
相槌を打つと、マダムは満足そうに頷かれます。世間話的に「大分からですか?」と聞いたところ、「そう。あなたは?」との質問。「佐賀です」と答えると、なんとマダムのご出身も佐賀(神埼だそうです)。
珍しく佐賀の人間に遭遇したことで、マダムのテンションは急上昇したらしく、その後もどんどん話しかけてこられます。ほどなくやってきた新幹線を前に、「となりに座りましょう!」とのお誘い。
え? 小倉まで?
しかし、自由席の列に並んでいる以上、今更ワタシ指定席でしたー、などとは言えません。一瞬、ほんの一瞬だけマダムと反対の車両に入ろうかと思いましたが、前後で並んでいるのにそれはいくらなんでも。
大人しく、マダムに譲っていただいた窓際の席に。すかさず「あなたも食べなさい」と、30センチはあるコロッケパン(コロッケ二つ入ってました)を、半分に割って分けてくださいました。ありがとうございます……。
コロッケパンと格闘しているうちに新神戸を通り過ぎ、「お仕事は?」「趣味は?」などとマダムの質問がどんどん飛んできます。なかには「人に佐賀を紹介するとしたら、何をおすすめする?」なんて質問も。
え? 佐賀出身の先輩に佐賀のおすすめを紹介するんですか? ワタシ何か試されてます?
背中に汗をかきながらどうにか答えをひねり出し、博物館が好きとか、大学時代山口県に住んでいたなんてことまで白状したところでお役御免。
「あなたとお話しできて本当によかったわ!」とのお言葉を残し、マダムは小倉で颯爽と降りていかれました。
何とか家に帰りつき、遅い夕食にありつきながら家族にこの話をしたところ、一言。
「ああ、あんたのことがちょうどいい暇つぶしだったわけだ」
うん、私もそれはわかってたけど。あんまりハッキリ言わないでくれますかね……?
あ、でも私も会話の中でネガティブなことを言うたびに「大丈夫!」「まだ若い!」「できる!」と励ましてもらったので、お話しできてよかったです。
思わぬ出会いこそが旅の醍醐味、という言葉を改めて実感した一泊二日でした。