センター通信

ごあいさつ

住んだ都


佐賀県立 視覚障害者情報・交流センター
センター長 田中 真理

 

 

「あい さが」利用者及びボランティア、ならびに「あい さが」を支えていただいております皆さまには、ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。

 温かくなっては寒さが戻り、とまさに三寒四温といった時期になってまいりました。着るものに悩んだり花粉症がつらい季節ですが、これも春の訪れと言えなくもない……のですがやはり花粉症がつらいので、サガンスギの普及を全力で応援する日々です。

 さて、年明けに興味深いニュースを目にしました。アメリカのニューヨーク・タイムズ紙が「2024年に行きたい52の場所」という記事を発表し、そこで山口県山口市が3番手に紹介された、というものです。

 山口市といえば、大学時代四年間住んでいた街です。えーかれこれ……あ、めまいがしてきたので何年前か考えるのはやめましょう。私が住んでいたころと多少変わっているとは思いますが、静かで住みやすい街でした。そんな山口市のどんなところが評価されたのか、記事を探してみました。

 まず「国宝・瑠璃光寺五重塔」が良いとのこと。確かにあれは見事です。香山公園という小高い場所にある公園の中にあり、周囲も緑に囲まれ雰囲気も抜群。残念ながら現在は修復工事中とのことですが、外国人が考える日本的(仏教的)な景色そのもので、海外に受けが良いのも納得です。

ちなみにここ、入学式の翌日のオリエンテーションにて、学科の新入生全員で連れて行かれ、「山口の地理に慣れるために、自分で帰宅方法を調べて各々で帰れ」と言い渡された場所でもあります。いやー衝撃でした。今でも覚えているくらいですからね。衝撃的すぎてそれ以前の瑠璃光寺の説明とか全部忘れましたもんね。五重塔が国宝だなんて、全然聞いた覚えがない!

 まだスマホもない時代、携帯電話はありましたが調べものをする機械ではなく(画面も小さいし)、知恵を出し合おうにも入学二日目、周囲に知り合いもいません。というかそもそも、この公園の配置もよくわからない。出口はどこ!? 

 何とかバス停を探し出し帰路につきましたが、あれは忘れえぬ強烈な体験でした。今もやってるのかな。色々な事情で難しいでしょうかね。

 紹介記事に話を戻しましょう。「コンパクトで体験の詰め合わせのような街、近くに湯田温泉もある」なるほど。盆地にある街なので、いわゆる市街地の規模は大きくありません。人口も、県庁所在地としては全国最下位付近です。古い時代に整備された城下町の名残か、細い小道が多い。そのあちこちにお店や建築物があります。

そして湯田温泉です。郊外ではなくバイパス道路に沿って温泉旅館などが立ち並ぶ温泉街で、歓楽街でもあります。ゆったりした風情、というより、大きなホテルで宴会しながら湯を浴びて、夜は食事や飲みに繰り出して、といった様相です。嬉野温泉と感じが似ているかもしれません。実は大学の最寄り駅は山口駅ではなくこの湯田温泉駅で、労働の現場でもありました。大学の最寄り駅にある温泉街。そう、学生アルバイトの巣窟です。

私もこのあたりの割烹料理屋で卒業までアルバイトしていました。決め手はなんといっても賄いです。給料をもらった上に食事までついてくるなんて、色んな意味でこんな美味しいことはありません。たぶん大学時代の私の三分の一くらいは賄いでできてました。トロの海苔巻に赤だし、和牛のカツ、美味しかったなぁ……。

あれ? 何の話だったっけ?

えっと、湯田温泉ですね。湯田温泉は白狐が湯につかっているのを見て発見されたといわれる温泉で、「白狐の湯」とも言われています。温泉街には旅館や立ち寄り湯のほか、足湯もあちこちに設置されていて、気軽に楽しむことができます。

山口市の中心は湯田温泉駅から一駅で、自転車で20分いけば美術館や博物館、商店街にたどり着きます。道中には私の在学中に市立図書館も新設されました。4年次のゼミがなぜか大学ではなくここで開催されることになり、図書館というより授業を受けに通っていた思い出があります。図書館は好きなのに、授業で通うと楽しいと思わないのは何でなんでしょうか。

県庁、博物館、美術館のあたりから一の坂川周辺は、京都を模したといわれるのがよくわかる、雰囲気のある街並みが続いています。この辺は昔ながらの邸宅街やお寺などがあり、お店も見るからにお洒落そうなところが多いです。大学生はあまり寄り付かないエリアですね。ここも、外国からの観光客には受けるだろうなと思います。

山口市街について印象的だったのは、生粋の山口人であるアルバイト先のオーナーの言葉です。何かのとき、オーナーは「山口市の殿様は大内氏。毛利氏が殿様という感覚はない」と言っていました。

聞いた当時はあまり深く考えなかったのですが、今思うと確かに、山口市内には大内氏が築いたもの、遺したものが随所にあって、その空気感のようなものが現在の山口市を構成しているのではないかと感じました。オーナーの言っていた「山口は大内の殿様の街」とは、そういうことなのかもしれません。

盆地で山に囲まれていて、縁のあたりは坂が多くて、利便性はちょっと悪いですが、喧噪もなく人ごみもなく、温泉や寺院や歴史的建造物があり、美味しいお店も商店街もある、過ごしやすい街です。

そういうところが評価されたのであれば、住んでいた身としてとても嬉しく、誇りに思います。機会がありましたら、是非山口市にお越しください。全力で思い出スポットをプレゼンしますので!

新年度も、あいさがをどうぞよろしくお願いいたします。