センター通信
センター長あいさつ
画家と光
佐賀県立 視覚障害者情報・交流センター
センター長 田中 真理
「あい さが」利用者及びボランティア、ならびに「あい さが」を支えていただいております皆さまには、ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。
冬の寒さを乗り越え、春になり新年度となりました。この原稿を書いている段階ではまだまだ寒さも残っており、ようやく我が家の梅の花が開いたかといったところでしたが、現在の皆様の周りではいかがでしょうか。昨年は地震、大雨、猛暑、大雪と自然の厳しさを実感させられた年でした。今年は穏やかな天候に、農作物の豊穣となればいいなと願うばかりです。
さて、1月のサロンでは、初めての試みとして芸術鑑賞会というものを開催しました。いくつかの絵画の立体コピーを触ってもらいつつ、作者のことを掘り下げたり、作品同士を比較してみたり、時代背景や技法を説明しつつ、皆様の疑問に答えていくというような内容で、恐れ多くも解説員役をさせていただきました。
ボロが出ないように、なるべく自分が良く知っている画家や作品を選んだつもりでしたが、皆様の質問が多岐にわたり、うまく説明することができなかった場面があったことは忸怩たる思いです。もっと勉強します……。
また、立体コピーで絵画の特徴を伝えることの難しさを実感しました。こちらもなるべくわかりやすい作品を選んだつもりでしたが、難しかったですね。伝わりやすいコピーの仕方など、もっと工夫が必要だと感じました。
それでも、あんな風に皆で絵画や芸術について話すことができたというのは、とても新鮮な時間でした。触ってみたい作品リクエストもいただきましたので、ぜひまた開催できればと考えています。触ってみたい作品や解説してほしい作品・作家などがありましたらわたくしの方までご連絡ください。勉強しときます。
さて、今回ピックアップした画家の中から、モネについて補足しようかと思います。現場での解説がちょっと流れたので。
当日も説明しましたが、印象派の代表的な画家であるクロード・モネは晩年、白内障を患っていました。一時は失明の危機にありましたが、周囲の励ましと治療により回復し、その後大作「睡蓮」を描き上げています。特に後期のモネの絵が白っぽく輪郭がぼんやりしているように見えるのは、作風というよりは白内障の影響だと考えられています。「睡蓮」は色んな年代の作品があるので、見比べてみると違いは歴然としていて、それもまた面白いです。モネは86才まで生きましたので作品も多く、長い制作期間の中で作風も変化していきます。一人の画家の、こういった変遷をたどるのも鑑賞の醍醐味です。単なる時間の経過にとどまらず(それも面白いですが)、画家の体調や精神状況、周囲の環境、当時の時代背景など、意外と作品にははっきりと表れています。
視力に問題を抱えていた画家はモネだけではありません。モネと同時期の画家で「踊り子」などを描いたドガは、まぶしがり症と呼ばれる網膜疾患を抱えていたため、作品のほとんどが室内を描いたものです。ルノワールは近視に悩んでいたそうですし、ゴッホは緑内障だったとも言われています。あの独特な描写は、緑内障の人が見た世界だったのかもしれません。
世間は春です。現地に行ったり、直接作品を見に行くのは難しいかもしれませんが、春の鮮やかな風景や、異国の景色、誰かの目に映り、誰かが描き表したこの世界を、感じてみるお手伝いができたら幸いです。
今年度も、あいさがをよろしくお願いいたします。